民法が定める普通方式の遺言は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類です。自筆証書遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し押印する方式で、手軽さが長所ですが要件不備や紛失のリスクがあります。公正証書遺言は、公証人が作成し、原本を公証役場で保管する方式で、確実性が最も高い反面、費用と手間がかかります。秘密証書遺言は、内容を秘密にしつつ公証人の関与で存在を証明する方式ですが、実務ではほとんど使われていません。このほか、死亡の危急に迫った場合や、船舶上、伝染病隔離中などに使える特別方式の遺言もあります。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名をすべて自書(手書き)し、押印することが要件です。パソコンでの作成や代筆は原則として無効です。日付は「令和7年4月21日」のように特定できる形で記載する必要があり、「令和7年4月吉日」のように特定できない表記は無効とされます。2019年の民法改正により、財産目録部分のみは例外的にパソコン作成や通帳コピーの添付が認められるようになりましたが、本文は依然として自書が必須です。加除訂正にも厳格なルールがあり、変更箇所を示し、変更内容を付記して署名し、変更箇所に押印する必要があります。
2020年7月から始まった、法務局が自筆証書遺言を保管する公的制度です。作成した自筆証書遺言を法務局に持参して申請すると、法務局が形式的な要件をチェックした上で原本を保管してくれます。手数料は1通3900円です。この制度を利用する最大のメリットは、紛失・偽造・隠匿のリスクがなくなること、相続発生後に家庭裁判所の検認手続きが不要になること、そして相続人に対する遺言書保管の通知サービスが利用できることです。自筆証書遺言の手軽さを残しつつ、従来の弱点を大幅に補った制度で、公正証書遺言との中間的な選択肢として有力です。
まず、遺言の内容を整理し、相続人となる方や遺贈する財産を特定します。次に、公証役場に連絡して公証人と打ち合わせを行い、遺言の趣旨を伝えます。必要書類(遺言者の印鑑証明書、戸籍謄本、財産に関する資料など)を用意し、証人2名を手配します。相続人・受遺者・その配偶者や直系血族は証人になれないため、利害関係のない友人や弁護士・司法書士に依頼するのが一般的です。作成当日、公証役場に遺言者と証人2名が集まり、公証人が事前打ち合わせに基づいて原案を読み上げ、内容に誤りがないか確認した上で、全員が署名押印して完成します。費用は遺産額に応じて数万円から数十万円となります。
一般論として、信頼性と実行力を重視するなら公正証書遺言、手軽さとコストを重視するなら自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言が現実的な選択肢です。遺産が多額である、相続人間の対立が予想される、不動産など権利関係が複雑な資産がある、高齢で判断能力に不安が生じ始めている、といった事情があれば、公正証書遺言を強く推奨します。公正証書遺言は要件不備による無効のリスクがほぼなく、原本が公証役場で厳重に保管され、検認も不要であり、万全の備えとなります。
検認は、自筆証書遺言や秘密証書遺言について、家庭裁判所が遺言書の存在と現況を確認する手続きです。遺言書の偽造・変造を防止し、相続人に遺言の存在を知らせることを目的とします。遺言書の有効性を判断する手続きではなく、形式的な現状確認にとどまります。相続開始後、遺言書を保管していた人や発見した相続人は、遅滞なく家庭裁判所に検認を申し立てなければなりません。公正証書遺言と法務局保管制度を利用した自筆証書遺言は、検認が不要です。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為を行う権限を持つ者です。遺言書で指定するか、遺言執行者の指定を第三者に委託するか、相続人等の申立てにより家庭裁判所が選任します。遺言執行者がいれば、不動産の相続登記、預貯金の解約、有価証券の名義変更などを単独で行え、他の相続人の協力を得る必要がありません。相続人間の対立が予想される場合や、遺贈先が相続人以外の場合に特に有効です。弁護士や司法書士などの専門家を指定することが多く、相続人の1人を指定することも可能です。
遺言はいつでも自由に撤回・書き換えができます。後に作成された遺言が前の遺言と抵触する範囲で、前の遺言を撤回したものとみなされます(抵触しない部分は両方とも有効)。また、遺言者が遺言書を破棄した場合や、遺言と抵触する行為(遺言で譲ると書いた財産を生前に売却するなど)を行った場合も、その範囲で遺言は撤回されたものとみなされます。自筆証書遺言を公正証書遺言で書き換えることも、その逆もできます。異なる方式の遺言の間に優劣はなく、日付が新しいものが優先されます。
相続人全員(および受遺者がいればその同意も含む)の合意があれば、遺言と異なる遺産分割協議を成立させることが可能です。ただし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者の同意も必要となるケースがあります。遺言と異なる分割は、相続人間で一度遺言どおりに取得した財産を贈与や交換するものとして、贈与税や譲渡所得税の課税対象となる可能性もあり、税務上の影響を慎重に検討する必要があります。
遺言能力とは、遺言の内容と効果を理解し、有効な遺言を作成できる能力です。満15歳以上であれば原則として遺言能力を認められますが、認知症などで判断能力が著しく低下している場合は、作成した遺言が無効と判断される可能性があります。相続発生後に他の相続人から遺言無効確認請求が起こされ、作成時の判断能力が争われるケースは少なくありません。判断能力に不安が見え始めた段階で遺言を作成する場合は、できるだけ早期に公正証書遺言で作成し、作成時の医師の診断書や本人の状況を示す記録を残しておくことが、後日の紛争予防につながります。
自筆証書遺言や秘密証書遺言が封印されている場合、家庭裁判所における検認の手続きで開封する必要があります。相続人が自分で勝手に開封すると、5万円以下の過料に処される可能性があります。ただし、開封してしまったこと自体で遺言が無効になるわけではなく、遺言の内容は有効です。封印されていない自筆証書遺言であれば、中身を確認すること自体は問題ありませんが、発見した相続人は速やかに家庭裁判所へ検認を申し立てる義務があります。法務局保管制度を利用した自筆証書遺言や公正証書遺言は検認不要です。
包括遺贈は、「遺産の2分の1を友人Aに」のように、遺産全体に対する割合で遺贈する方式です。包括受遺者は相続人と同様の権利義務を持ち、プラスの財産だけでなく債務も割合に応じて承継します。包括受遺者は遺産分割協議にも参加します。特定遺贈は、「甲土地を友人Bに」のように、具体的な財産を特定して遺贈する方式です。特定受遺者は指定された財産のみを取得し、原則として債務を承継しません。税務上、個人への特定遺贈は相続税の対象となり、法定相続人でない者への遺贈には相続税の2割加算が適用されます。不動産の特定遺贈では、登録免許税の税率が相続人への相続の4倍となる点にも注意が必要です。
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